幽霊暁に死す Ghost Dies at Break of Dawn.


「幽霊暁に死す」 1948年、 97分、マキノ雅広
制作:新演技座、C・A・C  脚本:小国英雄
出演:長谷川一夫、轟夕起子、斎藤達雄、沢村貞子、飯田蝶子
(上映タイトル「いきてゐた幽霊」)
長谷川一夫のダブル・キャスティング。幼い時に死んだ父と、結婚したばかりの息子が、ある時、古い山荘で再会する。その山荘とは、父の弟(斎藤達雄)が、父の遺言に背いて独り占めした遺産だった。息子(長谷川一夫)は幽霊として出現した父(これも長谷川)から、その詐欺の顛末を教えられる。息子と父の亡霊、両者が一つの画面に入るショットも多く、画面合成の完成度も高い。
驚くべきは、いかにもマキノ的な奇想天外な演出。最初、ドライヤー的な教会の十字架のショットに続き教会で結婚式を挙げる二人の正面背後のショットで、正しいカット割りをするマキノに驚かされるのだが、次のショットでさらに度肝を抜かれる。バーンというパイプオルガンの音と共に、教会のドアが開き、突風が吹き荒れ、カーテンが揺れる。まったく意味不明。しかし、その突風の正体が物語を追うに従い明らかになる。それは亡霊である父の登場であった。
突然の音楽の挿入、パン、キャメラ移動、と縦横無尽に遊んでしまうマキノのイキの良さ。前半の小学校、長谷川一夫がいいたいことが言えない気の弱い教師なのだが、校長の不信任決議を自分から名乗りでるという職員会議のシーンの音の演出は驚嘆もの。子供たちが1,2,3 ドンドンドンと、めいめい連呼しそれがオフスクリーンで集積してゆく。長谷川一夫の顔のCUが何度も舐めるようにパンされ、彼の校長に楯突く決断を盛り立てる。
何よりも面白いのが、この幽霊もののプロットにおける、長谷川と妻・ヒロイン轟夕起子のあっけらかんとした明るさ。幽霊の父親と居間で、おしゃべりをするシーンの気の抜け方は上質なギャグである。「お父様、そんなくよくよしない方がいいわよ」「私たちの幽霊の世界の標語っていうのは、うらめしや〜、この恨みはらさでおくべきか、っていうもんでね」
幽霊と生者の団欒シーンとは、笑える発想である。
“Ghost dies at break of dawn” (Yurei Akatsuki Ni Shisu)
Dir: Masahiro Makino, 1948, 97 min
Independently produced by Shinengiza & C.A.C
CAST: Kazuo Hasegawa, Yukiko Todoroki
Kazuo Hasegawa’s double casting, as a just-married man and as the ghost of his father, was superb idea by Masahiro Makino. Also the double exposed special effect of the ghost appearance is creatively explored in this rare film. (I saw a private print for the first time at Cinema Vera, Tokyo. It is believed only one print existing now.)
What’s incredible is Makino’s gag using the ghost figure. The ghost is too timid to confront with his still-living brother who stole his property against his will. The ghost has the right and good reason to revenge and haunt the brother, but he says “I’m too timid to haunt people, I just wanna stay as ghost and don’t want to go to heaven.” So it became the son and his new bride’s role to encourage him to stand up. So the story becomes the journey of children convincing their parent to speak out his right. A story of too-scared ghost encouraged by those who alive. This is pretty funny.

Atsushi Funahashi 東京、谷中に住む映画作家。「道頓堀よ、泣かせてくれ! Documentary of NMB48(公開中)」「桜並木の満開の下に」「フタバから遠く離れて」「谷中暮色」「ビッグ・リバー 」(2006、主演オダギリジョー)「echoes」(2001)を監督。2007年9月に10年住んだニューヨークから、日本へ帰国。本人も解らずのまま、谷根千と呼ばれる下町に惚れ込み、住むようになった。

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