1939 95 min
ラスト1分で、反ナチ・プロパガンダ映画になってしまっていたのには腰を抜かした。
それまでは、典型的な禁じられた恋・ハプスブルク家皇族バージョンだったのに!
しかしその中でも、軍隊による警備は派遣するに及ばず、警察によるものでよいと、警戒レベルを下げ、サラエボでの暗殺の危険を間接的に高めようとした儀典省大臣(この男は、貴賤結婚が皇太子と、ヒロインのチェコ人令嬢の間に結ばれたとき、彼女に顔をつぶされたのを根に持っていた)のしぶとい暗さとか、皇太子と父・陛下の結婚にまつわる対立を、狩猟シーンの素早いカットワークと、暴力的な銃声の連続で描いてしまう(かつ、猟銃の狙いは決して画面に出さない)点や、皇族儀式の形式性の空虚さ(数人かけて貴賤結婚の認め状を作っていて、皇太子が拒否したとたん、あっけなくキャンセルされる様など。お役所仕事そのもの)を笑えるように描いている辺りの細部は素晴らしいものだった。
ラスト、皇太子夫妻の暗殺を全て引きのショットで、どこで何が起きたのか、分からない騒然とした空間で捉えるあたりはさすが。オフュルスは宮廷内部を美しく見せたりと、引きのショットがうまい作家である。そんな広い空間把握の感性が暗殺シーンの演出に繋がっているのだと思う。