“Delta”(2008年、ハンガリー、ムンドゥルツォ・コルネール監督)
Bela Tarr の影響なのか、他人とは目線を合わさず絶えずうつむき加減の人間たち(アル中が殆ど)が、他人とコミュニケートする意志を全く欠いたかのようなか細い声色でぼそぼそと呟き続ける世界。それが”Satantango” を思わせるという意味で驚くに値しないと言えなくもないが、冒頭の牛が屯している横移動の持続や、塀越しに豚の屠殺の音だけが響く中、暗闇で振り返るヒロインの青白い顔を彼女のファーストショットにするセンス、木船が群れをなし河を下るショットの美しさ、どれもこれもが一流だと断固擁護したい。主演の細身の女優の幸薄い顔や、その母と愛人の窶れ切った顔、暗闇で魚とパンを無言でむさぼる男たちなど、ごつごつとした顔の存在がフィルムの上に幾重にも転がっているという印象を受けた。レイプシーンの描き方も決して悪くない。
上映後、Chris Fujiwara、藤原敏史のW Fujiwara とおでん屋へ。なぜかFord の話で盛り上がり、長らく見たい、見たいと触れて回っていた” Seven Women” のビデオを漸く発見。その代わり、Young Mr. Lincoln (若き日のリンカーン)の作品論をChris のウェブ批評誌”Undercurrent” に書けとのこと。う〜ん、困った。フォード論は畏れ多くて手を出したことがないのだ。