「阿波の踊子(剣雲鳴門しぶき)」
(1941年/東宝京都 モノクロ・スタンダード 71分)
監督:マキノ正博 脚本:観世光太 撮影:伊藤武夫,立花幹也 美術:北村高敏 照明:井上栄太郎 音楽:飯田信夫
出演:長谷川一夫/入江たか子/高峰秀子/黒川弥太郎/月田一郎/清水金一/清川虹子/沢村貞子/進藤英太郎/汐見洋ほか。
仕事とフィルメックスで、しばらく看過してきたマキノ特集に追いつこうと新文芸座へ。14、5年前学生時代に要町に住んでいたので池袋は詳しいはずなのだが東口と西口を取り違える始末。
諸々のごたごたで疲れ果て、前半彼岸の世界をさまよってしまった。が、要所々々の切れある演出で徐々に覚醒。特に、海賊十郎兵衛の弟・長谷川一夫が宿の窓辺に座っていた身振りを、彼を慕う女中・お光(高峰秀子)が真似し、彼の声色で台詞をなぞり、窓辺の木枠に肘を乗せてうっとりとするショットは最高!
ラスト、阿波踊りを踊りまくる徳島の群衆モンタージュはすごい。足を出し、手を出し、前進し・・・と繰り返すこの反復を延々と見続けるのはバッドトリップのよう。悪夢だ。「ヴェルクマイスター・ハーモニー」の群衆行進とタメを張るほど恐ろしい。そして、この踊り狂う群衆の中をすすっと長谷川一夫が進み出るときの集中力は、言葉の映画に対する敗北の瞬間である。マキノは、運動する群衆の中で焦点がすっと一人の人物に集中してゆく磁場の変容を描くのがめちゃくちゃうまい。
「仇討崇禅寺馬場」(1957年 東映京都)
監 督:マキノ雅弘 原 案:山上 伊太郎 脚 本:依田 義賢 撮 影:伊藤 武夫 音 楽:鈴木 静一
配 役:生田伝八郎……大友柳太朗 お勝……千原しのぶ (モノクロ/92分/シネスコ(東映スコープ))
最初の御前試合は、ピンと張り詰めた空気と東映京都の完璧な画面設計が合わさった活劇シーン。モノクロのコントラストの効いた画面の黒の深み、真剣勝負のロング、にじり寄る人物の画面への出入り、そして移動ショットを組み合わせ、迫力抜群に見せる果たし合いは、何度も味わい直したい。東映京都のすばらしさは、寺の門などロングで侍がぞろぞろと歩いてくるショットのサイズのリアリティである。背景の寺社建築が雄大で、東京都内に現存している寺でちょろっとやるロケとはレベルが全く違う。霧の中での決闘、町人が大挙して喧嘩場まで押し寄せる時の勢いと均一性の美しさ。千原しのぶのたおやかな演技もいい、さすがに山田五十鈴には敵わないが、しおらしい身のこなしはさすがマキノ演出。