1992 France
Marie Trintignant, Stéphane Audran, Jean-François Garreaud, Yves Lambrecht
泥酔している女性の過去が少しずつ明らかになってゆくというサスペンス構造はどこにでもあるのだが、「主婦マリーがしたこと」ではやたら記憶に残る娼婦を演じていたMarie Trintignantが幾人かの男性とベッドを共にしており、それがどんな順番なのか前後関係も因果関係もわからないまま、その謎を解きほぐすようにいくつかの時系列がクロスしてゆくという構造は、曖昧でかつ緻密な高揚感を作り出している。(編集が上手い)
しかし、彼女を看病する年増の女(Stephane Audran)が知らない裏で秘密を共有したレストラン店主(レストランの名はLe Fou 「穴」。もちろん、ベッケルから来てるのだろう) と彼女がデキてしまうというラストについてはどうだろうか。この作品に限らず、シャブロルはしかるべき伏線を張らずに取って付けたような唐突なオチを持ってくること(引き裂かれた女、ベラミーもそうだろう)が多い。意見が分かれるだろうが、物語はどうでもよろしい、というのがシャブロルの本質であり、それより人の持つ隠微な闇を浮き上がらせるのに関心があったのではないか。今作のStéphane Audranは、ホテルで浮草生活を続けるブルジョアであったが、あんなに世話したMarie Trintignantに裏切られ、自分の男を奪われてしまう。とうとうホテルを2年ぶりに出て、故郷リヨンに戻りその命を絶つという物語が、映画のラストに突如焦点化される。説話の傍系にいた女性の闇がオーラスで浮かび上がるのは、遺作「刑事ベラミー」の刑事の弟の死のようだ。
主人公でなくとも、また画面上でなくオフスペースで語られようが、暗く冷たいボディブローで見る者の肝を剔ることにご執心していたのではないか。