児童虐待とネグレクトの問題を、とあるひとつ家庭に起こりうる日常の出来事として限りなく具体的に迫った描写に心引き裂かれ、強烈に揺さぶられる体験だった。
シングルマザー亜紀と優真(11、小学校にいってれば6年生のはず)と篤人(4, 元サッカー選手の内田篤人が好きな亜希が名付けた)が、転々と変わる男の性格や状況に翻弄され、堕ちてゆくさまが情容赦なく活写される。腹をすかせて餓死寸前の子供たちを不憫に思い、消費期限切れの弁当をあたえるコンビニ店主・目加田と関係が深まり、養子に迎え入れられるのだが、遺伝子レベルに焼き付いた愛の枯渇は、どうしても治癒できず、善意の大人たちは途方にくれるしかない。暴力も貧困も児童虐待も世代を超えて連鎖してゆくしかない世の不条理が、強く読む者の胸を打つ。
弱く揺れ動きやすい亜希の感情の起伏が、男たちとの荒んだ関係、乏しい周りの人間との繋がりに影響を受け、腐食してゆくさまが実感をもって迫ってくる。筆者のインテンシティに満ちたドラマの描写力に引き込まれるしかない。