いま開催中の東京ドキュメンタリー映画祭2022。私・舩橋は、短編部門の審査員を仰せつかりまして、その表彰式がありました。
突出した作品も多く、見ているこちらが唸らされる出来栄えの作品が幾つもありました。
作り手として、これは何度も見直すべき、世界の映画祭で評価されてしかるべきと思う作品を最後選んだつもりです。
講評を以下、掲載します。
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<東京ドキュメタリー映画祭2022 短編部門講評> 舩橋淳
今回審査した作品の中で、評価すべき基準をあげます。
●まず映像でしか語ることのできないテーマ、話法が見出されているかどうか。
言葉で語れるもの、ニュースのヘッドラインで語れるものは、新聞やネットで表明すればいいわけです。
ナレーションで語り込むドキュメンタリー作品は、私たちは「紙芝居」とよく言いますが、映像が、言葉を説明する補足になってしまいます。
そうではない、映像でしか描けないものを見出している作品こそ、素晴らしいドキュメンタリー映画だと思います。
それには、作り手が撮影する中で出会った発見や気づきが、絵で撮れていることが大切です。撮る前からわかっている予定調和の内容の撮影ほど、見ているこちらを萎えさせるものはありません。
自分が生きている社会や歴史、コミュニティの中で、薄々感づいているが、はっきりとは認識できていない「ある問題」や「ある美しさ」に向けてキャメラを構え、変わりゆく社会や変容してゆく人々の姿の中に、時代が写り込んでいたり、自分が気づいていなかった他人への愛情が映っていたり、そんな時代と日常を映し出す鏡として、ドキュメンタリーを撮っている作家の飽くなき好奇心が露呈している作品こそ、高く評価したいのです。
個別の作品について。
グランプリ 「火曜日のジェームズ」
スマホのAIと監督である主人公の対話をナレーションがわりに使うという仕掛けが、単なる思い付きでなく、物語の内的な必然にまで高められていることに驚きました。病気で死にゆく母親と主人公との関係が、諧謔に満ちたAIとのナレーション対話の間に、悲しみがにじみ出るように浮き出てくる。
コロナ禍のネット空間からはみ出てしまう人間性が、ドキュメントされていました。
とても知的でかつヒューマンな作品で、世界の国際映画祭で評価されるべきクオリティがありました。
準グランプリ 「待ちのぞむ」は、
「ビランガナ」と呼ばれるバングラデシュの強姦被害者と、
日本軍による韓国人の従軍慰安婦、二つの国での性暴力被害者を横断するように描き、
「人生を奪われてしまった」女性たち、当事者の痛みを照射し、
日本・パキスタンによる性暴力への加害を糾弾しました。
作り手の、国境を超越して問題をあぶり出す視点の確かさを高く評価します。
以上。
舩橋淳 (映画監督)
【短編部門コンペティション】
◉グランプリ
『火曜日のジェームズ』(ディーター・デズワルデ監督、2021)
賞金:6万円
◉準グランプリ
『待ちのぞむ』(セ・アル・マムン監督、2021)
賞金:3万円
◉観客賞
『遺言」〜呉服屋二代目が七十六年、思い続けること〜』(清水亮司監督、2022)
賞金:1万円
◉アジアンドキュメンタリーズ賞
『無理しない ケガしない 明日も仕事 ~新根室プロレス物語~』(湊寛・堀威監督、2021)
賞金:2万円 + 配信一年間見放題
【人類学・民俗映像部門コンペティション】
◉グランプリ(宮本馨太郎賞)
『ウムイ「芸能の村」』(ダニエル・ロペス監督、2022)
賞金:10万円
◉準グランプリ
『吟遊詩人 -声の饗宴-』(川瀬慈監督、2022)
賞金:5万円