1970, 89 min
Director: Claude Chabrol
Stéphane Audran (Helene)
Jean Yanne (Popaul)
昔LAのEgyptian Theaterで見たが、傑作は何度でも見たいもの。
ジャネット・リーの髪型のStéphane Audran 演じる女校長と、田舎町の肉屋の主人Jean Yanneの恋愛サスペンスなのだが、シャブロルの手にかかると、言葉の全ての意味において凡庸さからかけ離れてゆく。クライマックスになるに従い、ぐいぐいと時間が引き延ばされ、聞こえるはずの音声はフェイドアウトし、聞こえないはずの音声や光が出現し、空間はどんどん歪みゆく。ラスト、自分の腹を刺した肉屋Jean Yanneを車に乗せ、病院へ急ぐときの車中の移動シーンが忘れがたい。どんどん血の気が引き、脂汗が光りやたらツヤの良いJean Yanneの顔と、運転するStéphane Audranの横顔、それに自動車前面の車窓の夜景。この3つのショットにより、Jean Yanneが愛を告げる時間が見事に語られる。自動車の走行音はなく、二人の低音域(アフレコ)の声のみが、闇を浮遊するように移動する車内空間に響く。そして、病院に着くやいなや看護婦や医者がストレッチャーを広げ、Jean Yanneを移動させたりするが、それは全てオフスクリーン。ずっとJean YanneとStéphane Audranの見つめ合いをクローズアップで示すのみだ。見せ場となると、要らないものは一切画面から捨象する勇気と倫理は、彼がヒッチコックから学んだことではなかろうか。とにかくChabrol – Jean Rabier (DoP)コンビが撮った「女鹿」「不貞の女」「肉屋」あたりの充実ぶりは最高だ。