法政大学で全く未見のUlmer 作品2本と、ずっと昔に見て全く忘却の彼方へと消えていた「Detour 恐怖の回り道」(1945)を固め打ち。ふらふらと亡霊のようにヒッチハイクを続ける男(Tom Neal)のイメージばかりが鮮烈に脳裏に残る”Detour”は、ターナー的な不確かな存在の浮遊が、作品としての魅力となっており、道中、共犯関係を結ぶヴェラ(Ann Savage)とは決して結ばれることはないだろうということは、このTom Neal の存在を見ていれば確かなこととして実感される。
“鎖につながれた女たち Girls in Chains” (1943)は、途中不覚にも、pass out. しかし、寝てしまっても要所は抑えることの出来るストレートな筋立て。アルドリッチの監獄ものの如く、荒くれどもの監獄の更正施設に着任した新人教官が主人公。違いは、全てが女性という、年代を考えればかなり先鋭的なテーマ取り。しかし、悲しいかな、ローバジェットなのだろう、芝居場が、全て長廻しの立ったままの会話劇が延々と続くところもあり、画面がみるみるうちに生気を失ってしまう。といっても、独房に一人一人暴力少女たちを放り込む場面などは、アクションの執拗な反復はハマっていたが。
“青ひげ Bluebeard” (1944)は傑作。一日中Ulmerを見続けて良かった。Lucille (Jean Parker)のクローズアップの画面設計、ロングでは顔を見せずに置いてポンと寄るタイミングは大いに勉強になる。照明は、口元にふわっとスポットが降り、それ以外は(ベールに隠れているという意味づけなのだろう)暗い影で隠れている。この人間の顔の一部に光が当たり、あとは影が落ちているという視野角は程良く一貫して保たれており、そのふわっとした光の溜まりに人が入ってきたり、退いたりすることが、ドラマの運動とシンクロするという驚くべき設計=演出のセンスで、これぞ映画という一品。決して忘れてはならぬのは、Bluebeardこと殺し屋役のJohn Carradine。Puppeteer人形遣いという職業の持つ、職人肌のアーティストという凡庸なイメージにけっして収まることのない、力の抜けた謎の存在感と低いヴォイスは強く我々を惹きつける。頭の上にだいぶスペースを空けた彼のクローズアップ(イレイザーヘッドのポスターのよう、といえば分かるだろうか)は、ただごとではない。