「十年 TEN YEARS JAPAN」

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十年 TEN YEARS @ テアトル新宿  11.30.2018

そもそもオムニバスは、尺が短いゆえに、他の作品と不可避的に比較されてしまうし、かつまとめてテーマが決まっていたりすると、鑑賞者の印象も一緒くたにされたりする弊害もあり、難しいフォーマットだと思うのだが、10数分の短い尺の中でどんなエピソードとショットを押し込めることができるのか、作家のセンス(情報過多に凝縮しすぎず、かつ突出するショットやネタを調整しつつ配置するセンス)が問われる。その意味では、二本目の「いたずら同盟」が映画としてもっともバランスがよく、単純に心に残る。
●PLAN 75
2028年、高齢者社会が行き詰まった日本。75才以上は無作為に選ばれ、投薬死に追いやられるという設定。ショットのセンス、老人に対する敬意、極端にまで行き詰まった終末医療の殺伐とした感じは、素晴らしい。未来もなく、息も詰まるし、切なくなる・・・が、ジレンマに苦しむ主人公の男性(川口)がさらに問題に直面し、先の見えない解決に向かわなければいかぬ頃に映画は終る。もう少し深めたいところ。なので、ドラマに対し、尺が足りていない感じが残る。しかし、また見たいなぁと思う作家の手つきは良い。

●いたずら同盟
小学生が全て、白い骨伝導式端末を右目の横につけ、「PROMISE 」という全能型AIに命令されるという未来。死を見せないというAIの指令で、教師たちに隠れて殺処分するとなった、馬を小学生3人組が救出する。
とにかく暗い闇の森を馬を走らせたいという作家の欲望を感じる作品。夜霧立ちこめる森を馬が走ってゆくショットの美しさ。その馬が病のため(?)に死に至るのだが、それを見つめる少年たちのショットも素晴らしい。
作家の闇に対する感性と撮影が傑出している。
全体主義国家が進み、AI にコントロールされた世界で、死にゆく馬にインスパイアされた子どもたちが野生を取り戻す様は詩的でもあり、深みがあった。

●DATA
杉崎花の存在が素晴らしい。父親や他の役者は問題があるが、彼女の存在が映画を引っ張り続ける。物語は凡庸でも映像と演出、演技がしっかりしていれば、心に触れる作品になる。10年後というコンセプトは薄いので、そこが弱い。

●その空気は見えない
地上は放射能に覆われ尽くされていて、人類はみな地下に住んでいるという設定。これはプロデューサーのミス。おそらくこの規模の映画で、見る人を納得させるディストピアを、地下空間に作り上げることができるのか?美術の問題もあるが、そもそもそんな設定は予算がないと説得力のある作品は難しい。磯見さんのような、ミニマリズムで勝負する第三極の才能がいれば別だが。ビジョンの設定ミスだと思う。

●美しい国
太賀が面白い存在。しかし、脚本やコンセプトがいまいち消化しきれていない。
政権の右傾化、戦争にどんどん向かっている時代に、若者がどんどん戦場に送られている。そんなクレイジーな世の終末感を、ひりひりする個人の物語に落とし込んでこそ映画なのだが、なぜ徴兵制プロパガンダ広告のデザイナーとその担当の広告代理店の男の話なのか。個人の話としてひりひりするような、強烈な体験になっていない(特に短編では難しいのに!)。視点が悪いとしか言いようがない。なぜ当事者の若者を描かないのか。

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最後に、映画の順番だが、なぜこうなったのか。
例えば、PLAN 75→美しい国→いたずら同盟→その空気は見えない→DATA
が全体としては心に残ると思うのだが、是枝さんがおそらく「美しい国」批判を最後に持っていきたかった、というのは邪推だろうか。

Atsushi Funahashi 東京、谷中に住む映画作家。「道頓堀よ、泣かせてくれ! Documentary of NMB48(公開中)」「桜並木の満開の下に」「フタバから遠く離れて」「谷中暮色」「ビッグ・リバー 」(2006、主演オダギリジョー)「echoes」(2001)を監督。2007年9月に10年住んだニューヨークから、日本へ帰国。本人も解らずのまま、谷根千と呼ばれる下町に惚れ込み、住むようになった。

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