舞台は東京下町の谷中。古いホームムービーの保存・修復活動をしているかおりは、昭和32年に焼失した<谷中五重塔>とその姿を記録した8ミリフィルムの存在を知る。寺院、霊園の墓守、伝統工芸の職人、郷土史家に取材を試みながら、ありし日の塔に思いを馳せるかおり。はたして幻の8ミリフィルムは現存しているのか。そんなとき彼女は地元のチンピラ・久喜と出会い、ひょんなことからフィルム探しを一緒にやることに。若い二人は互いに惹かれあってゆく。
一方、時代を遡ること江戸中期、五重塔の建設に燃える大工十兵衛は、親方や妻お浪の反対を押し切り、独力で塔を作り上げようとしていた。彼を突き動かす想いとはいったい何か?
寺町谷中のドキュメンタリーと、現代と江戸時代を往復するフィクションが渾然一体となり、伝統と創造の意味を問いかける。
失われし古き伝統と無関心がはびこる現代を対照的に描き出す本作は、ドイツ、イギリス、香港など国際映画祭でも高く評価された。そもそも江戸の心意気を残した下町谷中に、現代東京の若者を放り込むとどうなるか?という舩橋監督のアイデアをもとに、映画・演劇専門学校ENBUゼミナールの俳優コースの卒業制作としてスタートした企画。ドキュメンタリーとフィクションの融合、現代劇と時代劇の往還によるオリジナリティー溢れる映画創造を試み、ついに長編映画として完成した。出演は地元の伝統工芸職人や郷土史家、お寺の墓守などの「谷中びと」と、ENBUゼミナールの学生俳優たち。時代劇パートの原作は幸田露伴『五重塔』。
撮影は『ドッペルゲンガー』『禅』の水口智之。そしてシンガー畠山美由紀がエンディングテーマ「This is Good Bye」を歌う。舩橋淳監督は前作『ビッグ・リバー』(主演:オダギリジョー)に続いて、ベルリン国際映画祭ワールドプレミアという快挙を成し遂げた。